貧しかる家内( ヤウチ )と知るか 縁談をひかへ目にして客は帰りぬ
かたくなに友の好意をことはりし 吾が性かなし貧の力みに
喜びは君につくべし苦しみは 吾のみ耐へなむ愛する妻ゆえに
疲れ伏す妻の背をさすりつつ 金を借る相談す雨ふる夕
なにごとも我慢せねばといういふ妻の 言葉にいたく腹立つ朝なり
生涯の思ひ出とならむ修学旅行に とぼしき中より吾子を発たせぬ
悲しみに耐いなむ時よ早く起き出て 朝日さしこむ浜をながむる
石一つそっと拾ひて思ひきり 海に投げたりこの淋しさに
深酒のわれをなだめつ手を取りて 妻と子供ら床につかせぬ
少年時の夢捨てず持つこの友は 目を光らせて貧しく生きる
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