阿修羅の流れ(おいらせ渓流)

阿修羅(あしゅら)の流れ.青く 苔むした岩と底から湧き上がって来る水の流のコントラストは見る人になん

とも云えない不思議な感覚を与えてくれる阿修羅の流れです。


湖水の川となりて流れ出づる処を子の口と称す。その流れを奥入瀬川と称す。橋かかる。長さ十三四間。水は

緩く流る。水中の魚を見るべし。右岸を下る。路も緩也。十三町にして、子の口の瀧に至る。奥入瀬川の断崖

に一落する也。高さ三丈幅十丈、三里四方の十和田湖の湖水が集まりて落つることなれば、水量は多し。幅の

ひろきことだけなら、他にもその類少なからず。殊にナイヤガラの写真見たる目にはあきたらぬ心地す。され

ど、この渓流は、他には見難き風致を有す。湖口より蔦川を入るるまで凡そ三里、島多し。みな木を帯ぶ。こ

れ奥入瀬渓流の特色也。渓流は普通勾配急に、水の増減甚だしく、水中に巌あるも、木を帯ぶるに由なき也。

ひとり奥入瀬の然らざるは、ほとんど勾配なきまでに流れ緩にして、十和田の全山木しげるがために、絶えて

洪水なく殊に老樹天をおおうによる也。さればとて、時に急湍(きゅうたん)もありて、単調にあらず。げに

や、三面の間、山毛欅、桂、 、栃などの大木しげり合ひ、女蘿(つた)かかる。仰いで天を見ず、下には、

こごみ茂る。紫陽花、蛇麻の花もさきたり。如何なる炎天とても、ここを上下する者は、絶えて夏あるを知ら

ざるべし。左右は、断崖也。瀑布を帯ぶ。白布瀑を最も美とす。白糸瀑、姉妹瀑、雲井瀑、棚瀑などは、その

名あるものなるが未だ名のつかざるもの多し。高さいづれも十丈にあまる。木繁れるがために落口の見えざる

ものあり。下部の見えざるものありて、ますます奥ゆかしく感ぜらる。十和田湖に遊びて、この渓流を見ざる

ものは、未だ十和田湖を見たるものと言うべからざる也。・・・・・・・・・

                 十和田湖 大町桂月 より抜粋


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                阿修羅の流れ(おいらせ渓流)
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                阿修羅の流れ(おいらせ渓流)
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