昔しの夏…暑き日は子供の鳴らす鈴の音が

真夏日…水がめ白く光る午后の陽

蒸し暑くてやりきれぬ日に、幼き子がヨチヨチ歩いている。はいている下駄の鈴がなんとなく涼味を感じさせ

る。



暑き日は子供の鳴らす鈴の音が
       身にもひびきて涼しき湧きぬ



ひそけさをつぶやく如く ほうちょうの
       木瓜をきざむ音にめざめぬ


悪夢去りまぶしき光に子供らの
       せわしく動く影に気付きぬ


とらへられかごにうごめくごまとんぼ
       そのやるせなき小さきつぶら眼


葉の茂る大きいポプラの木の下の黒土を
       朝しみじみと踏むも


校庭のスピーカーの声こだまして
       秋訪れぬ高台の上


子供らの指にし待ちぬ八月も
       ききょうの花と過ぎ去りし今


世の光受くる短きその一生(ひとよ)
       虫ひたなくはあはれなりけり


風もなき海なだらかな鮫が浦
       船が群れなし北に向いて


にわか雨晴れたるあとの空き地にて
       子供ら喜々と水溜り集ふ
茫々とわがいのちあり夏の宵
       風の絶える草にまじりて


手ぶりよく円陣つくりて舞ひてゐる
       愛すべきかな盆踊りの群れ


雷はとどろき去りて鮫浦の
       水平線明るし夕暮るるころ


遠雷をこわきとねやる乳のみ児は
       まつ毛ふるわせもそもそと動く


むしあつき夜をはひ来し大蜘蛛は
       自我をくづさずわれに近づく


炎天にひかり散らして起重機は
       生きものの如く荷をつかみあぐ


音もなく遠き花火の揚がるごと
       わが幸はすでに過ぎしか


暑き日のやうやく暮れし野の路に
       軋みつつ車の音うつりゆく


たそがれの迫り潮騒の渚ゆく
       貝がらは白く光音する


水がめに我が影黒くゆれにけり
       水がめ白く光る午后の陽

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