短歌 愛しあい結ばれぬ思い出

君は、はるけきかなたに暮らす、夜を寄り添う君の声若し



ひそかにも 初秋の匂ひす 街かどよ
    夜を寄り添う 君の声若し

君が過去に あやまちひとつ なきがごと
    この夏の日の 部屋にまぶしき

初恋の 君の名前と 同じ名が 
    職場にありて いじらしくみえる

むこめとり 子供もありと 聞きつつも
    忘れがたき君 此の町に住むと

思わざる 人に思はれ 我恋うる
    君ははるけき かなたに暮らす

粉雪が 肩にかかるを 払ひつつ
    君とわかるる 夜の川岸

愛しあい 結ばれぬ映画 ふたつみて    
    終列車の過ぎし 踏切をわたる

君となれば 歩むのみにて たのしきに
    同じ職場で 共に働く

瞼に 消えず残らむ 小名浜の
    知りたる女 彫り深き顔

ほほえみにし 顔に重なる 一瞬に
    さみしき影の しかとみとめき

三年前に 逝きたる夫の しきたりと
    いでゆく吾に 石打をしゐ

酒求め 霧深き夜 黒髪も
    まつげも濡れて 帰り来けり

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