既に巻一.二.三.とノ−トを終え、快心の作?も八百首を数えるに至った。いずれも表現、技巧、感情の盛上がり
が不充分で汗顔に堪えない。わが愚才を冷笑するものである。益々勉強、研究して完成を期したいと願う次第で
ある。
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河またぐ送電塔は高くして 雲はろばろと高台に消えぬ
弟等の住む高台を喘ぎ行き 路傍の石に腰おろしたり
風荒き高台より望みたる 鮫の湊は潮にけぶれり
晴れとほる冬の朝を出で来り 映画館にひしめく若人にまぢる
魚やの臭い凍りて冬の陽の 鈍き街中われ帰りこぬ
水底に光とどけば藻のゆらぎ 色めき立ちぬ春浅くして
夕映えのよわき光を背に受けて いかつり人は身支度をしぬ
時化あとの河岸に並ぶいか船の 出でむとすらし人さわぐ見ゆ
濃霧にてわが行くところ帰港地を おぼつかなくも船の上は見る
新しく積み重ねたる薪束の 切口に強く夕日輝く
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海猫は空のくもりに啼けれども おりおりは磯の砂地におりる
おほどかに甲田の峯に落つる日の たまゆら青き光を放つ
凍み解けし今朝ゆく道はぬかりゐて 歩む道は重し我が人生も
水晶の様につめたくいすむ空気 元旦の朝日雪をはく
決断のつかざるままに歩みきて 護岸にあたる波を見て立つ
子供らは砂原であそぶみゆ 走る子ころぶ子声騒がしく
大いなる希望いだきて帰る路 見れば雄々しき臥牛の峯々
夕茜はらめる雲の束の間の 輝きに似て君はすぎたり
一瞬に風吹き変わりわが手さえ みえずなりゆく雪けむりの中
怠惰なる心いくらかひらけんか 雨にうるおう木立を歩む
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とぼしくも思ひ高かれかく言ひて 論語を説ける君はかなしも
はらからの諍い続くに出で見れば まだ日の射さぬ海は静けき
ほゆべきか否かに迷ふまなこして 近寄る吾を見守る犬かも
父われにだかむと末の子は ころげる如く坂を下り来る
わがために送りてくれし紅玉の いたみしことは母に語らず
波よする浜辺にたちてとつくにの 船見つ居ればのぞみ湧きくる
ある日ふと許しこうような目つきせし 捨て犬に会いて道を変えたり
苦しめば報いらるる日いつか来んと 言ひつづけし君は逝きけり
いつよりか友の便りも無きままに ひしひしと五十を南下する冬
自が国の文字と言葉をもてあます おろかなる世に子は学び居り
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