第三巻は短歌の伝統的な領域から大きく離脱している事実でさびしい気がする。
子供、学校、妻、肉親、自然(山、川、草、木、鳥、魚、等)天候、
生活等自然を詠んだ歌の少ない事は残念である
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ものごとを 大げさに伝ふは さみしさをまぎらはす為 ひねもす臥
空腹を 口にせし時 セメントの さいれんなりて皆笑いぬ
むさしのに 生れ育ちて 八戸に たじまぬ妻に 夕蛙なく
雲ひくく 降雨のなか 彼の丘は 黄に沈み居り 初夏の麦
小包を ほどきて嗅ぎたり むさしのの 土の香こもる 大白のいもは
かぶ島の 沖合はるか 日の出岩に くだる波の 音が聞ゆる
細道を 犬はばめども 近付けば 彼退きて 道開けたり
河ぞいの 此の小都市 あわれなり 夜のかもめの 月にとぶ見ゆ
はしかみも 名久井の山も 甲田峰も 見れば見飽きず 梅雨晴れの今朝
ひき潮と なりし港に 船舶の 向きかはりつつ 輝ける窓
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書を読まぬ われとなりしを 客観し うべなるかなと 思ふこのごろ
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親ありて なきにひとしき 吾なれど 人に劣りなく たゆまず生きむ
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夕やけの 野なかに映えて 子らあそべり この国をあいする 心湧きくる
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はまなすの花 そよぎゐる 小舟渡の ポンポン漁船に 女も乗りぬ
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紅ばらに 数十の花咲揃へ 風そよぐ毎に 焰ふきあぐ
馬鹿と伝ふ 言葉にひそむ眞実を この日初めて 吾はしりたり
警笛を むやに鳴らして 此の速度 己が権利ぞと 自動車ら過ぐ
水打ちし 玄関添ひに 咲くばらを 夕日照らして しづかなる家
手ぶりよく 円陣つくりて 舞ひてゐる 愛すべきかな 盆踊りの群れ
夕茜 今ひとたびと かかやきて 乾かしあがりたるイカ=@に染みたり
梅雨曇る 空の下びの 海荒れて ゴメも烏も 渚に居らずし
黒き箸 竹の箸やら 小さきと 子は竝べたて 夕餉はじまる
ほゆべきか 否かに迷ふ まなこして 近寄る 吾を見守る犬かも
湧く水の ゆたけき三嶋の水べりに 大根洗い居る 老婆ありたる
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いやまして 秋を深むる 虫の声 田畦の 途のつづけるかぎり
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職もとめ 1日さまよい 戻り来ぬ 虫の声しげき 高台の径を
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もりあがり 又もりあがる 昼の海 へつらい生きれば あまりに きびし
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信念などと言ひつつ 愚かに傾きて 我が心とみに安らぎ欲る
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炎天に ひかり散らして 起重機は 生きものの如く 荷をつかみあぐ
顔の汗の したたる拭ひる妻の すこやかなれば しあはせに見ゆ
秋風の 肌にかなしく 吹く如く 笛の調べの 始まりにけり
家の外にいづれば 苦のなき感じして 夕べあてなく 街にいで来る
日照り雨に 輝きながら 高館より 館鼻かけて 虹浮き立ちぬ
装蹄の 終わりし馬の 出てゆくを じっと見送る 蹄鉄工の君は
わずかなる 水を散らして 走りすぐ 形ばかりの 散水車にて
オットセイの 曲芸は 別れ惜しむ場を ゆるゆる引きて 次に移れり
りんごなど 共にくらへば たはやすく 打ちとけゆきて われは物言ふ
たよられず たよらじと願ふ吾れ されど問ふ 生くるにや 生かさるにやと
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冬の陽の うつろふときに 西風は 入江の海に 吹きつのりける
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新雪の 甲田の峯に 茜さし 大いなる月 東にのぼる
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乾きたる地肌は 荒れし北風の 跡をそのまま 凍りつきたり
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寒雨の ひともけぶれる夕街に 淡々とネオンの 明滅が見ゆ
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